EMC(電磁両立性)は、プリント基板(PCB)において重要な要素であり、電子機器の性能と信頼性に大きく影響を与えます。EMCとは、ある機器が外部からの電磁干渉(EMI)に対して耐性を持ち、同時に自身の電磁干渉を抑える機能のことを指します。これにより、複数の電子機器が同じ環境で共存しても、お互いに干渉し合わずに安定して動作できるようになります。
PCB設計においてEMCを考慮するポイントは様々あり、配線の最適化や配置設計などが重要な要素となります。高周波回路のレイアウトでは、信号線と電源線のクロストークを避けることや、高周波ノイズの影響を受けないよう適切なグラウンディングを行うことが求められます。
また、PCBの形状や材料選定もEMC性能に影響を与えます。金属パーツやシールドケースなどを使用して、磁界の侵入を防ぐことができる場合があります。適切なPCB設計を行うことにより、EMCの規格に適合しながら、電子機器の性能や信頼性を向上させることが可能になります。
EMC対策の基本
ノイズ源の同定
電磁干渉(EMI)を抑制するには、まずノイズ源を同定することが重要です。ノイズ源は、スイッチングデバイスや高周波信号などが原因となります。主な方法は以下の通りです。
- 観測:ノイズ源の周波数帯域を確認し、対象となる信号を特定します。
- 分析:ノイズの伝播経路や悪影響を受ける回路部分を詳細に調べます。
回路設計における考慮事項
EMC対策を効果的に行うためには、回路設計の段階から幾つかの要素を考慮する必要があります。以下はその例です。
- レイアウト設計:
- 信号線と電源線の距離を適切に保つ。
- 高速信号線のループを最小限に抑える。
- アナログ回路とデジタル回路を離れた場所に配置する。
- フィルタリング:
- EMIフィルタやフェライトコアを使用してノイズを低減する。
- シールドケーブルを利用して外部ノイズの影響を防止する。
- 接地策:
- グラウンド面積を広げ、インピーダンスを低減する。
- 星型接地やハイブリッド接地など、ノイズを分散させる接地方法を適用する。
回路設計において、これらの考慮事項を適切に取り入れることで、EMCの問題を抑制し、製品の品質を向上させることができます。
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PCB設計のガイドライン
EMC(電磁的互換性)を考慮したPCB設計には、レイアウトに優れたガイドラインを適用し、静電放電や放射電磁界から発生するノイズを最小限に抑えることが重要です。
レイアウト
- 高速信号線はできるだけ短くし、互いに平行な配置を避ける
- アナログ回路及びデジタル回路を分離し、信号線に対して十分な距離を確保
- ワイヤの交差は直角ではなく、45度で行う
グラウンディング
- 一点集中型やスター型グラウンディングを採用し、電流ループを最小限に抑える
- コンポーネントや信号線の近くにグラウンドプレーンを設置し、帯電防止対策を施す
- グラウンドプレーンはできるだけ広く確保し、低インピーダンスでの接続を目指す
シールドケース
- 電磁波の侵入や放射を防止するため、シールドケースを適切に配置
- ケースの材料は金属製が望ましく、電磁波を反射・吸収する働きがある
- シールドケースの接地は、指定された箇所でしっかりと対処し、ノイズ伝搬を防止
EMC試験と規格
EMC(電磁互換性)試験は、電子機器が電磁干渉に対して適切に動作し、その影響を最小限に抑えるために行われます。このセクションでは、抵抗と放射に関する試験と国際的な規格について説明します。
抵抗と放射に関する試験
抵抗と放射に関する試験は、電子機器の電磁干渉への対策を評価するために行われます。具体的には、以下のような試験が行われます。
- 放射電磁干渉試験: 電子機器から放射される電磁波が、許容範囲内に収まっているかを測定します。
- 抵抗電磁干渉試験: 電子機器が外部からの電磁波に適切に耐えることができるかを測定します。
これらの試験を行うことで、電子機器が適切なEMC性能を持っていることを確認することができます。
国際的な規格
EMCの国際的な規格は、電子機器が各国で安全に使用できることを確保するために定められています。主な規格は以下の通りです。
- IEC (国際電気標準会議): 世界的に広く用いられるEMC規格で、IEC 61000シリーズやIEC 60601シリーズなどがあります。
- CISPR (国際特殊委員会): 電波障害に関する規格を定めており、放射電磁干渉の規格も含まれます。
- ISO (国際標準化機構): 自動車や航空機など特定の産業分野向けのEMC規格を提供しています。
各国で独自の規格が設定されていることもありますが、これらの国際的な規格が基本となっています。電子機器の製造者は、適切なEMC試験を行い、これらの規格に準拠していることを確認することが重要です。
EMC改善策
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コンポーネントの選択
EMC改善策の第一歩は、コンポーネントの選択です。適切なコンポーネントを選択することで、ノイズの発生を抑えることができます。以下は、コンポーネント選択の際に考慮すべきポイントです。
- 高周波ノイズに対して低インピーダンスを持つコンポーネントを選ぶ
- 電流容量に余裕を持ったコンポーネントを選択する
- ノイズに敏感でないコンポーネントを選ぶ
フィルタリング
フィルタリングは、電子回路内のノイズを取り除くために使用されます。EMC改善策として、以下のフィルタリング方法があります。
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ローパスフィルタ:高周波ノイズを除去し、低周波信号のみを通過させるフィルタです。一般的には、インダクタとキャパシタを組み合わせて構成されます。
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ハイパスフィルタ:低周波ノイズを除去し、高周波信号のみを通過させるフィルタです。こちらも、インダクタとキャパシタを組み合わせて構成されます。
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バンドパスフィルタ:特定の周波数帯の信号のみを通過させ、その他の周波数帯のノイズを除去するフィルタです。LC回路を用いて設計されます。
これらのフィルタを適切に配置することで、回路内のノイズを低減させることができます。注意すべき点として、フィルタの特性によっては、設計上の意図しない周波数帯が減衰される場合もあります。したがって、適切なフィルタリング方法を選択することが重要です。
まとめ
EMC対策において、PCBデザインは重要な役割を果たしています。このセクションでは、EMC対策のためのPCBデザインのポイントを見ていきます。
- カップリングを最小限に抑える: 信号トレースと電源トレースを適切に配置し、相互作用を低減します。
- レイヤースタックの最適化: 適切なレイヤースタックにより、EMIの影響を抑えることができます。
- 適切なフィルタリング: 高周波ノイズを適切にフィルタリングし、EMC性能を向上させます。
また、PCBデザインを行う際には以下のようなツールやテクニックが役立ちます。
- シミュレーションツール: 事前にEMC性能を評価し、問題点を発見することができます。
- テスト機器: PCBが規格に適合しているかチェックするために、様々なテスト機器が用意されています。
- コンポーネントの選択: 高性能なコンポーネントを選択することで、EMC性能を向上させることができます。
EMC対策のためのPCBデザインは、製品の信頼性と性能を向上させるために重要な要素です。適切な設計と検証を行うことで、問題の発生を未然に防ぎましょう。